後ろの数列のみが少し高くなっていて、あとは見上げる系のスクリーンを鑑賞する古いタイプの劇場だ。
しかしスピーカーの入れ替えなどもしているので、今回も素晴らしい重低音なども聞かせてくれた。
待合室含め、久しぶりに来たのが懐かしい「新宿の映画館」の空気を感じられてうれしい。
本作を見た時。30数年前の高校生の時に感じた新宿の映画館のそのままの空間が残っていた。
そこでリマスターされた本作を見る楽しさにニコニコしていた。
●映像はもともとビスタサイズの作品なのでスクリーンの7割りくらいの面積なので
席数からすると小さく感じるが、リマスターは輪郭の強調やデジタルノイズも目立たなく
素晴らしい仕上がりだった。音声はスコア……おや本作はとても劇伴が少なく
録音状況も良いとは言えない(音響編集のせいか?)なのだが、そこ以外は今の映画にような
素晴らしい仕上がりに今回の上映に関わった方々へ感謝しかない。
とても素晴らしいものもこの時代に見せてくれた事。そしてシネマート新宿という劇場含め嬉しかった。
●あらためて鑑賞して、本作の徹底したキャラクターとドラマを排した反戦映画としての正しさを感じた。
先にも書いたが劇伴もかかるところはとても少なく、エリ部隊の移動でアニマルズの「朝日のない街」がかかるが
この皮肉な歌詞と相まって、なんとも言えない地獄へ向かう片道切符な感じを観客も味わう。
前半にある娼館でのお楽しみなどもなく、ここから先は容赦ない戦闘シーンが続くからだ。
いわるゆ娯楽戦争映画のようそはここから無くなる。キャラクターの死のドラマも最小限だ。
この徹底した娯楽要素を除外した作りは、当時は「キャラクターが描けてない。戦闘ばかりでドラマが無い」と
一部批判された。
しかし現在は『ブラックホーク・ダウン』や最近でも『アウトポスト』のように
実際に戦争があった場所を徹底的に描写する事のみを主題とした作品が当たり前になっているので
今こそ再評価されるのはとてもよくわかる。
私の戦争を題材として映画で『地獄の黙示録』と『シン・レッド・ライン』は2トップだ。
戦争を通して哲学的要素と、素晴らしい撮影に魅了される。映画史に残る傑作だ。
しかしこの二本は、芸術家が作った芸術作品である。
反戦映画かと言われると、それとは違うだろう。
『プラトーン』の象徴的なドラマや『フルメタル・ジャケット』のような暗喩・ブラックコメディも
実際にあった作戦より抽象化された戦争の現場だ。
『プライベートライアン』は前半の20分は確かにすごい。ここは傑作なのは確かだが
その後の展開はいわゆる娯楽戦争映画の王道や、いい話に感じてしまう終幕に不満もあった。
実録物でも『ブラックホーク・ダウン』や『ワンス・アンド・フォーエバー』は素晴らしい作品だが
『ブラックホーク…』は、ドキュメンタリーのようなつくりなのに、リドリー・スコットらしい
あまりにレイアウトが決まりすぎた、誤解を恐れずに書けば格好良すぎる美しさに満ちており
『ワンス…』は基本『ハンバーガー…』と似たような題材だが、メル・ギブソンのキャラクターや
ある意味ベタなドラマに感動はするものの、終わった後にある種の満足感が生まれてしまう。
その中で『ハンバーガー・ヒル』のここまで中盤から娯楽映画や芸術要素を
取り去った作りに、観客はただただこのような戦いに若者が行かされる矛盾を味わい
自分はこの場には居たく無いと心底思う事だろう。
今回の再上映には行けて本当に良かった。歴史に埋もれがちな傑作を再確認できた。
by suzuki-ri
| 2021-04-19 09:32
| 映画
|
Comments(0)